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心血管再生医療の現状と未来〜幹細胞治療の可能性〜
京都府立医科大学大学院 循環器内科学
講師 的場聖明

 食生活の欧米化や高齢化社会の到来により心不全患者や閉塞性動脈硬化症(末梢動脈閉塞症)の患者は、年々増加傾向にある。心臓移植のドナー数に限界があり、心臓の代わりとなる人工臓器の発達や心血管再生医療が、今後の高齢化社会の医療の希望となり得る。
最近、骨髄単核球を用いて血管再生を促すことにより、下肢の潰瘍消失や疼痛の軽快、消失を得られ、下肢切断を回避し、患者さんの生活の質が大幅に改善する血管再生治療が注目されている。長期の安全性や効果に対する評価も高い骨髄細胞による下肢血管再生医療の臨床研究のこれまでの経過と将来展望について考察するとともに、当教室を中心に施行し、当初の予定通り6例施行中の心筋再生医療について紹介した。

重症虚血下肢に対する血管再生医療
閉塞性動脈硬化症に対する治療としては危険因子の除去、運動療法、抗血小板薬や血管拡張薬などによる薬物療法、さらには経皮的血管形成術や外科的バイパス治療が行われている。しかし、血管のびまん性狭窄や膝下動脈以遠の病変を伴う場合は、再狭窄率が高く、血管内治療のみならず、外科治療の適応にもなりにくい。このような既存の治療に抵抗性を示す症例は、年々増加傾向にあり、病変の進行に伴い潰瘍や感染から下肢切断術いたる例が多い。現在、骨髄細胞による再生医療は、急性心筋梗塞、心不全、自己免疫疾患に対する治療などに対する治療としても注目されている。
虚血のため安静時痛や下肢潰瘍、壊疽を伴う重症末梢性動脈疾患(閉塞性動脈硬化症・バージャー病)に対して、虚血部周辺の組織からの血管再生や側副血行の発達を促し、虚血組織の血流を確保し、組織障害や壊死を軽減させようとする試みが血管再生医療の始まりである。これらは、血管新生療法(Therapeutic angiogenesis)と呼ばれ、重症下肢虚血における重要な治療戦略になっている。血管再生医療は、成人の末梢血の中に骨髄から動員された血管内皮前駆細胞が存在することが確認され、生後の血管新生に寄与することが明らかにされたことに始まる。その後、さらに骨髄に存在する多能性幹細胞が心筋細胞や内皮細胞に分化することが報告され、これらの細胞を用いた再生医療が循環器医療全般に応用されている。特に、骨髄単核球細胞移植を用いた閉塞性動脈硬化症やバージャー病など虚血下肢に対する血管再生の有効性の発表以降、この治療は世界中に広がり、これまでに多くの施設で虚血下肢の救済・機能回復が確認されている。

細胞移植による血管再生の機序
骨髄細胞中には造血系や間葉系幹細胞が含まれる。この造血系・間葉系幹細胞の両細胞群から血管内皮細胞への分化が可能であり、これら両細胞系統を含む骨髄単核球の移植により、虚血下肢の骨格筋において血管新生が誘導されると考えられている。機序として移植された細胞が血管内皮前駆細胞として血管形成に参画する脈管新生(vasculogenesis)と、その他の移植細胞から分泌されるVEGF(vascular endothelial growth factor), bFGF(basic fibroblast growth factor)などの血管内皮増殖因子が血管新生(angiogenesis)を促進することが、推測されている(図1)。

細胞移植による血管再生治療の適応
重症虚血下肢への血管再生療法の適応基準(表1)として、厚生労働省からは、外科的・内科的治療によっても下肢虚血改善の認めない患者(閉塞性動脈硬化症、バージャー病)20-80歳が、先進医療の対象と認可されている。ただし、炎症の強い症例や急速な虚血部位の悪化を認める場合は、細胞移植の効果を待っている時間的余裕はなく、下肢切断を考慮する必要がある。血管再生による全身へのマイナス面の作用を懸念して、未治療の糖尿病性増殖性網膜症、悪性腫瘍の合併症例は適応から除外されているが、これまで骨髄細胞の移植で癌発生の増加等は報告されていない。

血管再生の効果
骨髄細胞による血管再生治療では、全身麻酔下で自家骨髄液約600ccを採取し、骨髄単核球を比重遠心法にて速やかに分離し、約20億個の細胞を虚血肢の筋肉内約120箇所に分割注入する。
現在、京都府立医科大学を含む治療施設では、再生医療の適応となった患者のうち 閉塞性動脈硬化症で約60-70%、バージャー病で約90%の患者において血流改善による効果を認めている。(図2)今後も多施設における臨床研究が予定されており、さらに詳細が明らかになると考えられる。当大学では、膠原病による血管炎に基づく末梢血管病変にも積極的に血管再生医療(倫理委員会の許可のもと自費診療)をすでに18例に行ってバージャー病と同等の効果を確認している。また高齢者でも安全に血管再生医療が受けられるようサイトカインによる治療も臨床試験10例を終え、その長期効果を検討中である。

心筋再生による心不全治療

心筋幹細胞
以前は、増殖・再生しないと考えられていた心筋も、頻度は低いが再生しており、心臓内に幹細胞が存在することが報告されている。私たちも、浮遊培養で細胞槐を形成する増殖能を指標とする方法で単一細胞から増殖する心筋幹細胞クローンの単離にマウスのみならずヒトでも成功した。この細胞は、間葉系幹細胞様の形質を取り、心筋細胞のみならず血管内皮細胞、血管平滑筋細胞に分化可能である。

心筋再生療法
この、心筋幹細胞をマウス心筋梗塞モデルに移植することにより心機能を改善することが出来、さらにこの細胞の増殖・生存にはbasic fibroblast growthfactor(bFGF)が重要であることを見出している。そこで、臨床応用を目指して、ブタ心筋梗塞慢性期モデルに対して、ヒト心筋幹細胞移植とbFGFを徐放する生体吸収性ゼラチンシートの併用を行うことにより、ヒト心筋幹細胞移植の増殖・定着を促進し、治療効果を大きくしようという検討を行い、このハイブリット療法は、bFGF徐放生体吸収性ゼラチンシート単独、あるいは骨髄由来間葉系幹細胞移植に比較して有意に心機能を改善することを示すことが出来た。これらの結果をもとに、2009年9月に、厚生労働省 ヒト幹細胞審議会により臨床研究の実施を許可され、6例の手術、細胞移植を行い現在経過観察中である。(図3)

心血管再生治療の課題と未来
骨髄細胞を用いた血管再生医療は、厚生労働省から先進医療として認可され、安全性、効果については、これまでの臨床研究およびメタ解析からもほぼ認められているが、血管再生医療にても改善しない症例も少なからず存在する。細胞治療不応症例に対する工夫として、細胞治療とサイトカイン治療とのハイブリッド治療や、そのタイミング、長期効果等多くの臨床研究を積み重ね、より低侵襲で確実な治療が世界の標準治療として行われるように努力する必要がある。
心筋再生医療(ALCADIA trial)は、安全性試験の途中でその効果とともに今後検証が必要であるが、アメリカからの二報は、いずれもカテーテルを介しての血管内注入の細胞治療であり、私達が独自により安全でより効果のある心筋再生医療を血管再生医療のように進め、多くの患者さんの治療に役立てる様症例数の増加と効果検討が必要である。

おわりに
基礎研究からはじまり、実際に治療に応用されるにいたった心血管再生医療ついて概説した。21世紀に入り再生医学の進歩は、さらに加速しているが、今後それを上回る対象患者数の増加が予想される。今後も基礎研究、臨床研究を進展させ続ける必要がある。

図説
図1:血管新生の機序
血管新生(neovascularization)は、 内皮細胞の増殖による狭義の血管新生(angiogenesis) と血管内皮前駆細胞の分化増殖による脈管新生(vasculogenesis) からなる。
骨髄単核球細胞の移植は、血管内皮幹細胞の供給および他の細胞からのVEGF・bFGF・angiopietin-1などの血管新生因子を産生・供給することにより血管新生を誘導させる。

図2:血管再生医療後の下肢切断回避期間
閉塞性動脈硬化症74例、バージャー病51例 における3年間の経過において、閉塞性動脈硬化症で60%、バージャー病で91%の症例で下肢切断を免れた。

図3:心筋再生療法 臨床試験スキーム(ALCADIA Trial)
冠動脈バイパス術を受ける虚血性心不全の患者より、自己心筋幹細胞を単離・増殖しbFGFゼラチンハイドロゲルとのハイブリッド療法を行った。

表1: 重症虚血下肢への血管再生療法の適応基準